気管切開カニューレの種類と機能
気管切開カニューレの基本構造とカフの役割
気管切開カニューレは、外科的気道確保として気管切開孔を介して留置される管状の医療器具です 。基本的な構造は呼吸ルートとなるパイプと、固定と脱落防止を目的としたフレームで構成されています 。
参考)気管切開カニューレガイド
カフは、カニューレの先端近くにある風船状の構造で、膨らませることで気管とカニューレの隙間をなくします 。主な役割として以下の2つがあります :
参考)子どもの気管切開なび|気管切開の手術の前に知っておきたいこと…
- 誤嚥を防ぐ:口腔・鼻腔の分泌物や胃内容物の誤嚥により肺炎を引き起こすことを予防
- 空気の漏れを防ぐ:人工呼吸器使用時の換気量低下を防止
気管切開カニューレの種類による分類と選択指針
カニューレの種類は構造的な面から以下のように分類されます :
参考)https://archive.okinawa.med.or.jp/html/kouho/kaiho/2017/pdf/06/086.pdf
カフの有無による分類
カフ付きカニューレは気管切開術直後や誤嚥が多い場合、人工呼吸管理が必要な場合に用いられます 。メリットとしては誤嚥防止と人工呼吸が可能な点、デメリットとしては気管への刺激が強く嚥下しづらい点があります 。
カフなしカニューレは自発呼吸が十分で誤嚥も強くない場合に使用され、気管への刺激が少なく、患者の違和感が軽減されます 。
管構造による分類
単管カニューレは最も頻繁に使用される基本的なタイプです 。複管カニューレは二重管とも呼ばれ、内筒と外筒からなり、内筒を取り出して洗浄することでチューブの閉塞を予防できるため、喀痰が多く気管内腔が汚染されやすい患者に適しています 。
気管切開におけるスピーチカニューレと発声機能
通常の気管切開では、呼気がカニューレを通るため声帯を通らず、発声が困難になります 。しかし、スピーチカニューレを使用することで発声が可能となります 。
参考)気管切開しても発声できる方法とは – MERA 泉工医科工業…
スピーチカニューレには背面に窓穴が付いており、スピーチバルブを装着します 。スピーチバルブは一方弁になっており、吸気時はカニューレを経由して肺に空気を送り、呼気時は蓋の役割をして呼気がカニューレ背面の窓穴から声帯へ流れます 。
嚥下障害が強い場合にはカフ付きのスピーチカニューレ、嚥下障害がない場合はカフなしの単管のスピーチカニューレを使用します 。
参考)気管カニューレの抜去
気管切開カニューレ交換の適切な時期と手順
初回のカニューレ交換は、気管切開孔の創部が安定するまで遅らせるほうが安全です 。通常、肉芽形成と創部安定化には2週間程度を要しますが、気管切開を必要とする患者では創傷治癒が遅延する傾向があるため、それ以上の期間を要することが多いです 。
在宅管理では1~2回/月の頻度でのカニューレ交換が一般的です 。緊急時の交換に備えて、常に新しいカニューレと通常より細いサイズのカニューレを準備しておくことが重要です 。
参考)https://www.osaka.med.or.jp/img/doctor/care-manual/care-manual-3-2.pdf
外科的気管切開の術式選択とカニューレ管理についての専門的解説
気管切開カニューレにおける重篤な合併症とその予防対策
気管切開における最も重篤な合併症の一つが気管腕頭動脈瘻です 。これは気管カニューレやカフが気管壁に慢性的に接触することで気管壁に潰瘍を生じ、腕頭動脈との間に瘻孔ができて出血する致命的な合併症です 。
参考)注意すべき合併症
高リスク患者として、ADLが寝たきりの方、胸郭の変形が強い方、気管軟化症の方、人工呼吸管理が必要な方が挙げられます 。予防には以下が重要です:
- 適切な位置への気管切開
- 適正なサイズのカニューレ使用
- 状態に応じた低刺激なカニューレへの変更
- 定期的な内視鏡での観察
新鮮血の間欠的出血がある場合は気管腕頭動脈瘻の可能性があり、緊急で検査・手術が可能な施設への紹介が必要です 。
その他の合併症には、気管切開部位の感染、肺炎、縦隔炎、声帯機能不全、嚥下障害、気管軟化症、気管食道瘻、肉芽形成などがあります 。これらの予防と早期発見のため、日常の観察と適切な管理が不可欠です。