血管疾患一覧と分類
血管疾患の大血管系病変
大血管疾患は主に大動脈とその主要分枝に発症する疾患群です 。胸部大動脈瘤は上行大動脈瘤、弓部大動脈瘤、下行大動脈瘤に分類され、それぞれ異なる診断基準と治療方針が適用されます 。腹部大動脈瘤は最大短径の測定が外科的治療の適応判断に重要で、超音波検査により瘤径と形状、内部血栓の有無を評価します 。
参考)https://medicalnote.jp/diseases/body_parts/body/blood_vessel
急性大動脈解離は緊急性の高い重症疾患で、血管壁が裂けることにより生命に関わる状況を引き起こします 。高安動脈炎は大動脈やその分枝に原因不明の炎症が生じ、血管狭窄や拡張により重要臓器への障害をもたらす指定難病です 。
参考)病気について|循環器病について知る|患者の皆様へ|国立循環器…
末梢動脈疾患(PAD)は動脈硬化による下肢動脈の狭窄・閉塞が主因で、歩行時の下肢痛や冷感を特徴とします 。新しい治療法として、自己骨髄由来培養間葉系細胞移植による血管新生治療が注目されており、患者の細胞を使った完全自家血管新生治療法が先進医療として承認されています 。
参考)末梢動脈疾患 って?|血管の病気を知ろう!予防にいかそう!血…
血管疾患の心臓血管系病変
心血管疾患は循環器系の中核をなす疾患群で、狭心症と心筋梗塞が代表的な虚血性心疾患です 。狭心症は冠動脈の狭窄により心筋が一時的な血液不足となる状態で、胸部の締め付けるような痛みが数分から15分程度続きます 。心筋梗塞は冠動脈の完全閉塞により心機能が低下し、激しい胸痛、呼吸困難、冷や汗などの症状が15分以上持続する重篤な病態です 。
不整脈は心拍のリズム異常で、徐脈(50回/分以下)と頻脈(100回/分以上)に分類されます 。心房細動は心房の細かな震えにより血栓形成リスクが高まり、心不全や脳梗塞の原因となる可能性があります 。
心臓弁膜症は4つの弁に生じる異常で、加齢による変化が多く、自覚症状がない場合もあります 。心不全は心臓のポンプ機能低下により全身への血液供給が不十分となる状態で、様々な心疾患が原因となります 。
血管疾患の脳血管系病変
脳血管疾患は脳梗塞、脳出血、くも膜下出血、高血圧性脳症などに分類されます 。脳梗塞は脳動脈閉塞により脳組織が壊死する疾患で、アテローム血管性脳梗塞、ラクナ梗塞、心原性塞栓症の3つに細分化されます 。
アテローム血管性脳梗塞はコレステロール蓄積による動脈硬化進行で血栓形成し血管閉塞を来します 。ラクナ梗塞は脳の細動脈閉塞により深部組織に小梗塞を形成し、心原性塞栓症は心臓内血栓が血流により脳血管を閉塞する病態です 。
脳血管疾患の診療には多職種チーム医療が重要で、脳神経内科医、脳神経外科医、放射線科医、看護師の連携による迅速な診断と治療開始が患者予後を左右します 。特に脳梗塞超急性期のt-PA静注療法や血管内カテーテル治療では、Door-to-Needle時間短縮のための診療科の垣根を越えた協働体制が必要不可欠です 。
最新の診断技術として、脳アミロイド血管症の血液バイオマーカーが開発され、MRIに依存しない簡便な診断法として実用化が進められています 。
参考)脳アミロイド血管症の新たな検査法 ―世界の認知症リスク軽減を…
血管疾患の静脈系病変
静脈疾患は弁不全症、閉塞性病変、肺塞栓血栓症の3群に病態分類されます 。下肢静脈瘤は大伏在静脈と小伏在静脈の弁不全により生じる代表的疾患で、CEAP分類により病状を客観的に評価します 。
参考)http://j-ca.org/wp/wp-content/uploads/2016/03/4304_s1_1.pdf
CEAP分類は臨床分類(C0-C6)、病因分類(先天性・原発性・続発性)、解剖分類(表在静脈・穿通枝・深部静脈)、病態生理分類(逆流・閉塞・両方)の4項目で構成されます 。この分類により慢性静脈疾患の重症度判定と治療方針決定が標準化されています 。
参考)https://js-phlebology.jp/wp/wp-content/uploads/2020/12/2020-CEAP-20201205.pdf
深部静脈血栓症は下肢深部静脈での血栓形成により血流障害を来し、肺塞栓症のリスクファクターとなります 。静脈疾患の適切な管理により脂肪皮膚硬化症や潰瘍形成などの重篤な合併症を予防できます 。
参考)血管の病気を知ろう!予防にいかそう!血管の病気について 日本…
血管疾患の炎症性病変
血管炎症候群は全身血管壁の炎症により多臓器障害を引き起こす自己免疫疾患群です 。炎症を起こす血管径により大血管炎、中血管炎、小血管炎に分類され、各々異なる臨床像を呈します 。
参考)血管炎症候群~ANCA関連血管炎と巨細胞性動脈炎を中心に~|…
大血管炎には高安動脈炎と巨細胞性動脈炎があり、中血管炎として結節性多発動脈炎と川崎病、小血管炎にはANCA関連血管炎と免疫複合体性小血管炎が含まれます 。ANCA関連血管炎は顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症の3疾患で構成されます 。
参考)血管炎症候群 – 東京女子医科大学 膠原病リウマチ痛風センタ…
顕微鏡的多発血管炎は小型血管の血管壁炎症により急速進行性糸球体腎炎や肺胞出血などの重篤な臓器障害を来します 。抗好中球細胞質抗体(ANCA)が高頻度で検出され、診断や治療効果判定の重要な指標となります 。
参考)血管炎症候群
血管炎治療は一般的にステロイドと免疫抑制剤による過剰免疫反応の抑制が基本で、最近では生物学的製剤を用いた特定免疫経路の阻害も行われています 。
血管疾患の診断技術革新
血管疾患診断において超音波検査は最も汎用される非侵襲的画像検査法です 。7-10MHz以上の高周波リニアプローブにより頸動脈や下肢動脈の詳細評価が可能で、内中膜厚(IMT)測定やプラーク性状評価により動脈硬化度を定量化できます 。
参考)https://www.j-athero.org/jp/wp-content/uploads/publications/pdf/GL2022_s/01.pdf
ABI(Ankle Brachial Index)との組み合わせにより診断精度が向上し、血流波形パターンや下腿血流通過時間(TVF)から狭窄部位の推定も可能です 。腹部大動脈瘤では超音波による瘤径測定と形状把握が外科的治療適応決定に必須の情報を提供します 。
血管診療技師(CVT)制度により、日本血管外科学会、日本脈管学会、日本静脈学会が連携して血管疾患診療の専門技術者認定を行っています 。血管疾患の病態理解と診療技術の向上により、コメディカルスタッフも含めた包括的血管診療体制が確立されています 。
参考)【九州CVTの会】血管疾患診療に興味のあるすべての医療従事者…
再生医療分野では循環器疾患に対する新規治療法開発が進展し、血管新生や組織修復による治療法が実用化段階に入っています 。これらの技術革新により、従来治療困難であった血管疾患に対する新たな治療選択肢が拡大しています 。
参考)https://www.med.osaka-u.ac.jp/introduction/research-2/joint/generation-cardiovascular-therapy