肝機能検査の内容と基準値について
肝機能検査は、血液検査によって肝臓の状態や機能を評価する重要な検査です。肝臓は「沈黙の臓器」とも呼ばれ、症状が現れにくいため、定期的な検査で早期に異常を発見することが大切です。この検査では、肝臓や胆管に問題が生じると血液中に漏れ出す物質や、肝臓で合成される物質の量を測定することで、肝機能の状態を把握します。
健康診断や人間ドックでは標準的に実施される検査であり、肝炎や脂肪肝、肝硬変といった肝臓の病気だけでなく、胆石症などの胆道系疾患の発見にも役立ちます。また、アルコールの過剰摂取や薬物による肝障害の評価にも用いられます。
肝機能検査の主な検査項目と基準値
肝機能検査には複数の項目があり、それぞれが肝臓の異なる側面を評価します。主な検査項目と基準値は以下の通りです。
- AST(GOT)・ALT(GPT)
- 基準値:30U/L以下
- 肝細胞に多く含まれる酵素で、肝細胞が障害を受けると血液中に漏れ出します
- ALTは肝臓への特異性が高く、肝細胞障害の指標として重要です
- γ-GTP
- 基準値:50U/L以下
- アルコールや薬剤の代謝に関わる酵素で、飲酒習慣のある方では高値になりやすい
- 胆汁うっ滞でも上昇します
- ALP(アルカリホスファターゼ)
- 基準値:38~113U/L
- 胆汁うっ滞で上昇する酵素で、胆道系疾患の指標となります
- 骨や胎盤にも存在するため、成長期や妊娠中は生理的に高値となることがあります
- 総ビリルビン
- 基準値:1.1mg/dl以下
- 赤血球の分解産物で、肝臓で代謝され胆汁中に排泄されます
- 上昇すると黄疸の原因となります
- アルブミン
- 基準値:4.0g/dl以上
- 肝臓で合成されるタンパク質で、肝機能の合成能を反映します
- 慢性的な肝障害で低下することがあります
- コリンエステラーゼ(ChE)
- 基準値:性別により異なりますが、一般的に200~450U/L
- 肝臓で合成される酵素で、肝機能の合成能を反映します
- 慢性肝疾患で低下することが多いです
これらの検査値は単独ではなく、複数の項目を総合的に判断することで、より正確な肝機能の評価が可能になります。
肝機能検査で分かる肝臓の障害と病気
肝機能検査の結果から、様々な肝臓の障害や病気を推測することができます。主な異常パターンと考えられる疾患は以下の通りです。
- 肝細胞障害型
- AST・ALTが優位に上昇
- 考えられる疾患:ウイルス性肝炎、薬物性肝障害、脂肪肝など
- 急性肝炎では数千単位まで上昇することもあります
- 胆汁うっ滞型
- ALP、γ-GTP、ビリルビンが優位に上昇
- 考えられる疾患:胆石症、胆管炎、原発性胆汁性胆管炎など
- 黄疸を伴うことが多いです
- アルコール性肝障害型
- γ-GTPが特徴的に上昇し、AST>ALTのパターンを示すことが多い
- 考えられる疾患:アルコール性脂肪肝、アルコール性肝炎、アルコール性肝硬変
- 禁酒により数値が改善することが特徴です
- 肝合成能低下型
- アルブミン、コリンエステラーゼの低下
- 考えられる疾患:肝硬変、慢性肝炎の進行例
- 肝臓の機能不全を示す重要な指標です
- 混合型
- 複数のパターンが混在
- 考えられる疾患:進行した肝疾患、複合的な肝胆道系疾患
- より詳細な検査が必要になることが多いです
これらのパターンは目安であり、確定診断には医師による総合的な判断や追加検査が必要です。肝機能検査で異常が見つかった場合は、自己判断せずに医療機関を受診することが重要です。
肝機能検査の肝細胞破壊・障害の程度を調べる項目
肝機能検査の中でも、肝細胞の破壊や障害の程度を評価する項目は特に重要です。これらの項目は肝臓の細胞がどの程度ダメージを受けているかを示す指標となります。
AST(GOT)とALT(GPT)
AST(GOT)とALT(GPT)は肝細胞内に存在する酵素で、肝細胞が障害を受けると血液中に漏れ出します。ALTは肝臓に特異性が高く、肝細胞障害の鋭敏な指標とされています。一方、ASTは心臓や筋肉にも存在するため、肝臓以外の疾患でも上昇することがあります。
急性肝炎では、AST・ALTが1,000U/L以上の高値を示すことがあります。慢性肝炎では、数十~数百U/Lの軽度から中等度の上昇が持続します。また、AST/ALT比(De Ritis比)も診断の参考になり、アルコール性肝障害ではAST>ALT、ウイルス性肝炎では通常ALT>ASTのパターンを示します。
LDH(乳酸脱水素酵素)
LDHは全身の細胞に広く分布する酵素ですが、肝細胞にも多く含まれています。肝細胞障害でも上昇しますが、特異性は低いため、他の肝機能検査と併せて評価します。基準値は230U/L未満で、急性肝障害や悪性腫瘍で上昇することがあります。
γ-GTP
γ-GTPは主に肝臓や胆道系に存在する酵素で、アルコールや薬物による誘導を受けやすい特徴があります。アルコール性肝障害では特徴的に上昇し、禁酒により2週間程度で半減することが知られています。また、胆汁うっ滞でも上昇するため、ALPと併せて評価することで、胆道系疾患の診断にも役立ちます。
これらの検査値の上昇パターンや経時的変化を観察することで、肝障害の原因や重症度、経過を推測することができます。例えば、急激な上昇と下降はウイルス性急性肝炎を、緩やかな上昇と持続は慢性肝炎や脂肪肝を示唆することがあります。
肝機能検査の胆汁の流れを調べる項目
肝臓で生成された胆汁は胆管を通って十二指腸に排出されますが、この流れが阻害されると「胆汁うっ滞」と呼ばれる状態になります。肝機能検査には、この胆汁の流れを評価する項目も含まれています。
総ビリルビンと直接ビリルビン
ビリルビンは赤血球の分解産物で、通常は肝臓で代謝され胆汁中に排泄されます。血中ビリルビンには、肝臓で代謝される前の「間接ビリルビン」と、代謝後の「直接ビリルビン」があり、両者の合計が「総ビリルビン」です。
胆汁うっ滞では、直接ビリルビンが血中に逆流して上昇します。総ビリルビンの基準値は1.1mg/dl以下で、これを超えると黄疸が現れることがあります。黄疸の原因によって、直接ビリルビンと間接ビリルビンの上昇パターンが異なります。
- 胆汁うっ滞性黄疸:直接ビリルビン優位の上昇
- 溶血性黄疸:間接ビリルビン優位の上昇
- 肝細胞性黄疸:両者の上昇
ALP(アルカリホスファターゼ)
ALPは胆管上皮に多く存在する酵素で、胆汁うっ滞により血中に逆流するだけでなく、うっ滞刺激により合成も亢進します。そのため、胆汁うっ滞では著明に上昇することがあります。基準値は38~113U/Lですが、骨や胎盤にも存在するため、成長期や妊娠中は生理的に高値となることがあります。
胆汁うっ滞の原因疾患
胆汁うっ滞を示す検査値の異常から、以下のような疾患が疑われます。
- 肝内胆汁うっ滞
- 薬物性肝障害
- 原発性胆汁性胆管炎
- ウイルス性肝炎の一部
- 肝外胆汁うっ滞
- 胆石症
- 胆管癌
- 膵頭部癌
胆汁うっ滞が疑われる場合は、超音波検査やCT、MRCPなどの画像検査で胆道系の詳細な評価が必要になります。
肝機能検査の肝臓の働きを調べる項目と精密検査
肝臓は体内で多くのタンパク質を合成する重要な役割を担っています。肝機能検査では、これらの合成能を評価する項目も含まれており、肝臓の機能的な側面を評価することができます。
アルブミン
アルブミンは肝臓で合成される主要なタンパク質で、血漿タンパクの約60%を占めています。基準値は4.0g/dl以上で、慢性的な肝障害では合成能の低下により減少します。半減期が約20日と長いため、急性肝障害では変化が現れにくく、慢性肝疾患の進行度を評価する指標として有用です。
コリンエステラーゼ(ChE)
コリンエステラーゼも肝臓で合成される酵素で、半減期が短いため、肝機能の変化を鋭敏に反映します。基準値は性別により異なりますが、一般的に200~450U/Lです。慢性肝疾患や栄養不良で低下し、肝機能の回復とともに上昇します。
プロトロンビン時間(PT)
凝固因子の多くは肝臓で合成されるため、凝固能の検査も肝機能評価に用いられます。プロトロンビン時間は、肝不全の重症度評価や予後予測に重要です。肝硬変など重度の肝障害では延長します。
精密検査の種類と目的
肝機能検査で異常が見つかった場合、原因疾患の特定や肝臓の状態をより詳しく評価するために、以下のような精密検査が行われることがあります。
- 血液検査による精密検査
- 画像検査
- 腹部超音波検査:肝臓の形態、脂肪化、腫瘤の有無などを評価
- CT検査:肝臓の形態、腫瘤の詳細な評価
- MRI検査:脂肪肝や鉄沈着の評価、腫瘤の性状評価
- 血管造影検査:肝腫瘍の血流評価や治療に用いられる
- 肝生検
- 肝臓の組織を採取して顕微鏡で調べる検査
- 肝炎の活動性や線維化の程度、脂肪化の評価、腫瘍の診断などに有用
- 侵襲的な検査のため、適応を慎重に判断する必要がある
これらの精密検査により、肝機能検査だけでは特定できない原因疾患の診断や、肝臓の状態をより詳細に評価することが可能になります。肝機能検査で異常が見つかった場合は、医師と相談しながら適切な精密検査を受けることが重要です。
肝機能検査は肝臓の健康状態を知るための重要な検査ですが、結果の解釈には専門的な知識が必要です。検査結果に不安がある場合は、自己判断せずに医療機関を受診し、適切な評価と対応を受けることをお勧めします。