イレウスの種類
イレウスは腸管内容物の通過障害により起こる病態で、原因により機械的イレウスと機能的イレウスの2種類に大別されます 。機械的イレウスは全体の約90%を占め、物理的に腸管が閉塞・狭窄することで発症します 。一方、機能的イレウスは器質的異常がないにも関わらず、腸管運動の麻痺や痙攣により内容物が停滞する状態です 。
参考)https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/kochi/20140325001/1.pdf
2015年に発表された急性腹症診療ガイドラインでは、「腸閉塞」と「イレウス」の概念を整理し、機械的・物理的閉塞を「腸閉塞」、麻痺性のものを「イレウス」と区別することが提案されました 。これにより従来の「絞扼性イレウス」は「絞扼性腸閉塞」と呼ばれるように変化しています。
参考)概念が新しくなった「腸閉塞」と「イレウス」―その鑑別が重要
イレウスの機械的分類における血行障害
機械的イレウスは血行障害の有無により、単純性イレウス(閉塞性イレウス)と複雑性イレウス(絞扼性イレウス)に細分化されます 。単純性イレウスは血行障害を伴わず、胆石、腫瘍、腹部手術による癒着などが原因で腸管が物理的に閉塞した状態です 。
参考)腸閉塞(イレウス)|オリンパス おなかの健康ドットコム
複雑性イレウスは血行障害を伴う重篤な病態で、腸重積、軸捻転、癒着による索状物での締めつけなどが原因となります 。絞扼性イレウスでは腸管壁の血管が圧迫され、腸管が壊死に陥るリスクがあり、汎発性腹膜炎や敗血症などの合併症により死亡率は8〜25%に達します 。
参考)腸閉塞(イレウス)って?|医療法人 好友会 ひらたクリニック…
血行障害を伴う絞扼性イレウスの診断には、激しい腹痛、全身状態の急速な悪化が特徴的で、緊急手術が必要となります 。腸管壊死を伴う症例では死亡率が14.4%まで上昇するため、早期診断と迅速な外科的介入が救命の鍵となります 。
参考)池尻大橋駅徒歩1分のかまやち内科クリニック|糖尿病内科・高血…
イレウスの機能的種類と麻痺性病態
機能的イレウスは腸管の器質的変化がなく、神経や平滑筋の障害により腸管運動が停滞する病態です 。麻痺性イレウスと痙攣性イレウスに分類され、麻痺性イレウスが圧倒的に多く認められます 。
参考)イレウス(腸閉塞)とは? 症状・原因・治療法や看護のポイント…
麻痺性イレウスは開腹手術後に最も多く発症し、手術侵襲や薬剤の影響で腸管の蠕動運動をコントロールする自律神経が一時的に麻痺した状態です 。その他の原因として腹膜炎、腹腔内出血、尿管結石発作、中枢神経異常、腸間膜血管閉塞などがあります 。
痙攣性イレウスは腸管の一部が痙攣を起こして収縮し、内容物の運搬が障害される状態で、発症頻度は低いものの、手術、外傷、神経障害、中毒などが原因となります 。局部的な炎症や結石発作による腸管への刺激、自律神経の機能異常も発症因子として重要です 。
イレウス種類別の癒着性機序と手術関連性
癒着性イレウスは機械的イレウスの中で最も頻度が高く、腹部手術後の合併症として重要な位置を占めます 。手術操作により腹腔内に炎症が起こり、治癒過程でフィブリンという糊状物質が分泌され、組織同士を結合させることで癒着が形成されます 。
手術範囲が広範囲、出血量が多量、術後感染などの条件が重なると癒着形成のリスクが高まります 。癒着の程度には個人差が大きく、再開腹時にべったり癒着している症例もあれば、きれいに癒着がない症例も存在します 。
癒着性イレウスの再発率は約30%と高く、保存的治療後も慎重な経過観察が必要です 。イレウス管による保存的改善後の再発関連因子の検討により、予防的アプローチの重要性が指摘されています 。腹腔鏡下手術の普及により、内ヘルニアによる絞扼性イレウスも合併症として注目されています 。
参考)腸閉塞とは?症状や診断方法について解説|渋谷・大手町・みなと…
イレウス診断における種類別鑑別ポイント
イレウスの診断では、病歴聴取により手術歴、腹痛の性状、嘔吐パターンを確認することが重要です。絞扼性イレウスでは持続性の激しい腹痛を呈し、単純性イレウスでは間欠的な腹痛が特徴的です 。血液検査では白血球数増加、CRP上昇、乳酸値上昇が血行障害の指標となります。
画像診断では腹部CT検査が最も有用で、腸管拡張、内容物貯留、血行障害の評価が可能です。門脈ガス血症の存在は腸管壊死を示唆する重要な所見であり、ウィンドウ幅を調整した読影により見逃しを防ぐことができます 。腹部超音波検査は絞扼性イレウスの鑑別に有用な検査法です 。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/ddbe7261b32c5f4c593869d7ce557819671a7d6c
機能的イレウスの診断では、器質的閉塞所見がないにも関わらず腸管拡張を認めることが特徴で、薬剤性、電解質異常、炎症性疾患の除外診断が重要となります 。早期診断により適切な治療選択が可能となり、患者予後の改善につながります。
イレウス種類に応じた治療戦略と予防法
イレウスの治療は種類により大きく異なり、絞扼性イレウス以外では保存的治療が第一選択となります 。保存的治療には安静、絶食、補液、イレウスチューブ留置による減圧が含まれ、軽症例では70〜80%が改善します 。
絞扼性イレウスでは血行障害により腸管壊死のリスクがあるため、診断確定後は緊急手術が必要です 。手術の適応判断には時間的要素が重要で、発症から手術までの時間短縮が救命率向上の鍵となります。近年では腹腔鏡下手術の適応も拡大し、低侵襲治療の選択肢が増えています 。
イレウス予防には食事管理が重要で、腹7〜8分目の摂取量、よく噛んでゆっくり食べる習慣、腹部膨満感がある際の食事制限が推奨されます 。消化の悪い食品(ごぼう、昆布、きのこ類)の制限と、消化酵素を含む大根などの積極的摂取が有効です 。定期的な運動と水分摂取により腸管蠕動を促進し、再発予防につながります。