肺水腫と胸水の違い

肺水腫と胸水の違い

肺水腫と胸水の基本的な違い
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水のたまる場所

肺水腫は肺胞内、胸水は胸膜腔に体液が貯留

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主な原因

肺水腫は心不全や炎症、胸水は感染や癌など

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症状の特徴

肺水腫は急性の呼吸困難、胸水は徐々に進行

肺水腫における水分貯留の機序と部位

肺水腫は、肺胞という酸素と二酸化炭素を交換する小さな空気袋の内部に体液が異常に蓄積した状態です 。正常な肺では肺胞は空気で満たされていますが、肺水腫では体液で満たされるため、ガス交換が阻害されます 。この病態は肺毛細血管から間質、さらに肺胞腔内への漿液性液体の流出によって発生します 。

参考)肺水腫とは? – 東京田園調布駅前呼吸器内科・内科クリニック

肺水腫の発症機序は、静水圧の上昇、血漿膠質浸透圧の低下、または毛細血管透過性の亢進のいずれかまたは複数によって引き起こされます 。最も一般的な静水圧性肺水腫では、心臓の左心室から全身へ血液を送り出す力が低下し、肺から心臓へ戻る血液の流れが滞ることで肺静脈圧が上昇します 。

参考)肺水腫について

透過性亢進型肺水腫では、感染症や外傷、刺激性ガスの吸入などにより毛細血管の透過性が異常に高まり、血漿成分が肺胞内に漏れ出します 。この病型は急性呼吸窮迫症候群(ARDS)とも呼ばれ、非常に重篤な状態となります。

参考)非心原性肺水腫(Non-cardiogenic pulmon…

胸水の発生部位と病態生理学的特徴

胸水は肺を包んでいる胸膜と胸壁との間にある空間である胸膜腔(胸腔)に液体が異常に蓄積した状態です 。正常でも胸膜腔には少量の胸水(5-20ml程度)が存在し、肺の呼吸運動時の摩擦を軽減する役割を担っています 。

参考)胸水と肺水腫って何が違うの?

胸水は成分によって滲出性胸水と漏出性胸水の2つに分類されます 。滲出性胸水はタンパク質を豊富に含む液体で、胸膜の炎症により毛細血管透過性が亢進したときに生じます 。主な原因として感染症(肺炎随伴性滲出液、結核)、癌、関節リウマチなどの膠原病があります 。

参考)胸水 – 07. 肺と気道の病気 – MSDマニュアル家庭版

一方、漏出性胸水は水のように透明な液体で、炎症がない状態で静水圧の上昇や膠質浸透圧の低下により発生します 。心不全肝硬変が代表的な原因疾患です。医師はこの鑑別にLightの基準を使用し、胸水と血清のタンパク質やLDH比を測定して診断します 。

参考)胸に水が溜まる(胸水) – ブログ

肺水腫と胸水の原因疾患の相違点

肺水腫の原因は心原性と非心原性に大別されます 。心原性肺水腫の主要な原因疾患には、左心不全、心筋梗塞、心臓弁膜症(僧帽弁狭窄・閉鎖不全)、高血圧性心疾患、不整脈などがあります 。特に左心不全では心臓のポンプ機能低下により肺静脈圧が上昇し、肺胞内への水分漏出が生じます。

参考)高齢者の肺に水がたまった場合の余命とは? 胸水と肺水腫の違い…

非心原性肺水腫では、ARDS(急性呼吸窮迫症候群)、敗血症、重症肺炎、刺激性ガス吸入、高地肺水腫、神経原性肺水腫、薬剤性肺水腫などが原因となります 。これらは肺毛細血管の透過性亢進や神経系の異常が主な病態となります。

参考)肺水腫|病気症状ナビbyクラウドドクター

胸水の原因は滲出性と漏出性で異なります。滲出性胸水では、細菌性肺炎、結核性胸膜炎、悪性胸膜中皮腫、肺癌の胸膜転移、膠原病(関節リウマチ、全身性エリテマトーデス)などの炎症性疾患が主因です 。漏出性胸水の原因疾患には、うっ血性心不全、肝硬変、腎不全、低アルブミン血症などがあり、これらは全身の水・電解質バランス異常によるものです 。

参考)https://primary-care.sysmex.co.jp/speed-search/disease/index.cgi?c=disease-2amp;pk=33amp;sp=1

肺水腫における症状と重症度評価

肺水腫の症状は急激に発症することが多く、重度の呼吸困難が最も特徴的です 。患者は横になると息苦しさが増すため、起き上がって座った姿勢を取る起座呼吸を示します 。夜間に突然息苦しくて目が覚める夜間発作性呼吸困難も典型的な症状です。

参考)F-03 肺水腫 – F. 肺血管性病変|一般社団法人日本呼…

咳と痰の特徴として、ピンク色で泡沫状の大量の痰を喀出することが肺水腫の診断上重要なポイントです 。これは肺胞内に漏出した血漿成分と空気が混合したものです。聴診では全肺野にわたって湿性ラッセル音や喘鳴を聴取し、患者の発汗も顕著にみられます 。

参考)肺水腫 – 04. 心血管疾患 – MSDマニュアル プロフ…

胸部X線写真では肺門から肺野にかけて広がる境界不鮮明の蝶形影が特徴的所見とされており 、この所見は医師が肺水腫を診断する際の重要な画像的根拠となります。重症例では血液中の酸素濃度が著しく低下し、生命に関わる状態となるため緊急的な治療介入が必要です。

参考)肺水腫(ハイスイシュ)とは? 意味や使い方 – コトバンク

胸水の臨床症状と診断手技の詳細

胸水の症状は貯留量により異なり、少量(500ml未満)では無症状のことが多く、中等量以上で呼吸困難や胸部圧迫感が出現します 。大量胸水では肺の圧迫により著明な呼吸困難を呈しますが、肺水腫のような急激な症状発症は稀で、多くは徐々に進行する経過を辿ります。

参考)【保存版】胸水とは?症状、鑑別は?心不全以外も徹底解説!

身体診察では聴診と打診が診断の要となります 。聴診では胸水貯留部位で呼吸音が減弱または消失し、打診では濁音を呈します。ただし、これらの所見で検出できるのは500ml以上の胸水とされており、少量の場合は身体診察では診断困難です 。
胸水の確定診断には胸腔穿刺による胸水検査が必須です 。採取した胸水は外観(血性、乳び様、膿性など)、生化学検査(蛋白、LDH)、細胞診、細菌培養などの詳細な検査が行われます。特にLightの基準による滲出性・漏出性の鑑別は治療方針決定に重要な役割を果たします 。

参考)胸水 – 05. 肺疾患 – MSDマニュアル プロフェッシ…