肺炎球菌ワクチンで予防する高齢者の重症肺炎

肺炎球菌ワクチンの効果と重要性

肺炎球菌ワクチンの基本情報
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対象者

65歳の方と60~64歳で基礎疾患がある方

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予防効果

重症肺炎、敗血症、髄膜炎などの侵襲性感染症を予防

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効果データ

肺炎球菌性肺炎を約64%、全ての肺炎を約45%予防

肺炎球菌感染症は、特に高齢者にとって深刻な健康リスクとなります。肺炎は日本の死因の第3位を占めており、その中で肺炎球菌によるものは約2割と大きな割合を占めています。肺炎球菌は、唾液などを通じて飛沫感染し、日本人の高齢者の約3~5%の鼻や喉の奥に常在していると言われています。

この細菌が体内で増殖すると、単なる肺炎だけでなく、敗血症や髄膜炎などの重篤な合併症を引き起こす可能性があります。特にインフルエンザ感染後に肺炎球菌による二次感染が起こりやすく、重症化のリスクが高まります。

肺炎球菌ワクチンは、こうした深刻な感染症を予防するために開発されました。厚生労働省の定期接種プログラムでは、65歳の方と60~64歳で一定の基礎疾患がある方を対象に、1回の接種が推奨されています。

肺炎球菌ワクチンの種類と特徴

現在、日本で使用されている主な肺炎球菌ワクチンには以下のようなものがあります。

  1. 23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(PPSV23):「ニューモバックスNP」という商品名で知られ、23種類の血清型に効果があります。成人の侵襲性肺炎球菌感染症の原因の約4~5割を占める血清型をカバーし、これらの血清型による侵襲性感染症を約4割予防する効果があります。
  2. 13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13):主に小児に対して定期接種されていますが、成人にも使用されることがあります。ワクチン血清型による市中肺炎を45.6%予防し、ワクチン血清型による侵襲性肺炎球菌感染症を75.0%予防する効果が報告されています。
  3. 15価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV15):2022年9月に国内で製造販売承認されました。PCV13に含まれる血清型に加えて、22F型と33F型の2つの血清型に対する効果が追加されています。
  4. 20価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV20):PCV13に7種類の血清型を追加したワクチンで、米国では2021年10月から65歳以上の全ての成人に推奨されています。

肺炎球菌は現在100種類以上の血清型に分類されており、ワクチンはそのうちの一部の血清型に対して効果を発揮します。現在の課題として、ワクチンでカバーされない血清型による感染が増加傾向にあることが挙げられます。

肺炎球菌ワクチンの接種対象と効果持続期間

肺炎球菌ワクチンの定期接種の対象となるのは以下の方々です。

  • 65歳の方:定期接種の対象となります
  • 60~64歳で特定の基礎疾患がある方:心臓、腎臓、呼吸器の機能に障害がある方や、ヒト免疫不全ウイルスによる免疫機能に障害がある方も対象となります

ワクチンの効果持続期間については、研究によって若干の差がありますが、一般的に以下のように考えられています。

  • PCV13は接種後約4年間、市中肺炎に対する予防効果が持続すると報告されています
  • PPSV23の効果は接種後5年程度で徐々に低下すると考えられており、5年経過後の追加接種が推奨されることがあります

特に75歳以上の高齢者では、ワクチン接種後2年間の入院率が41.5%まで減少したという報告があり、医療費の削減効果も確認されています。

肺炎球菌ワクチン接種後の副反応と注意点

肺炎球菌ワクチン接種後に生じる可能性のある副反応には、以下のようなものがあります。

局所反応

  • 接種部位の疼痛
  • 発赤
  • 腫脹

全身反応

これらの副反応のほとんどは軽度から中等度であり、通常は数日以内に自然に回復します。重篤な副反応はまれです。

接種後の注意点

  1. 接種部位を清潔に保つ
  2. 接種当日の激しい運動や飲酒は避ける
  3. 入浴は可能だが、接種部位をゴシゴシこすらない
  4. 発熱や強い痛みが続く場合は医師に相談する

なお、過去に肺炎球菌ワクチンの接種で重い副反応が出た方や、現在重い急性疾患にかかっている方は、接種を控えるか医師に相談することが推奨されます。

肺炎球菌ワクチンと他のワクチンの併用について

肺炎球菌ワクチンは、他のワクチンと同時に接種することが可能な場合が多いですが、いくつかの注意点があります。

インフルエンザワクチンとの併用

肺炎球菌とインフルエンザの合併症は重症化リスクが高いため、両方のワクチンを接種することが特に高齢者には推奨されます。同日に別の部位に接種することが可能です。

新型コロナウイルスワクチンとの併用

現在の知見では、新型コロナウイルスワクチンと肺炎球菌ワクチンの間隔は特に定められていませんが、それぞれの副反応の判別がしやすいよう、可能であれば1~2週間程度の間隔を空けることが望ましいとされています。

複数の肺炎球菌ワクチン間の接種間隔

PPSV23とPCV13など、異なる種類の肺炎球菌ワクチンを接種する場合は、一定の間隔を空けることが推奨されています。一般的にはPCV13を先に接種し、その後8週間以上の間隔を空けてPPSV23を接種するという順序が推奨されることが多いです。

ワクチンの併用については、個人の健康状態や年齢、基礎疾患などによって最適な接種スケジュールが異なるため、かかりつけ医に相談することが重要です。

肺炎球菌感染症の最新研究と今後のワクチン開発

肺炎球菌感染症とワクチンに関する研究は日々進展しています。最近の研究動向と今後の展望について見ていきましょう。

血清型の変遷と置換現象

PCV13の普及により、ワクチンに含まれる血清型による感染症は激減しましたが、その一方でワクチンに含まれない血清型による感染症が増加する「血清型置換」という現象が観察されています。これは、ワクチンが肺炎球菌の保菌状態にも影響し、ワクチン含有型の保菌を減らす一方、ワクチン非含有血清型の保菌を増やすためと考えられています。

新しいワクチンの開発

より多くの血清型をカバーするワクチンの開発が進んでいます。PCV15やPCV20はその一例です。さらに、血清型に依存しない共通抗原を標的とした次世代ワクチンの研究も進められています。

免疫応答の研究

高齢者や免疫不全者におけるワクチンの効果を高めるための研究も行われています。アジュバント(免疫増強剤)の改良や、投与経路の最適化などが検討されています。

費用対効果の分析

肺炎球菌ワクチン接種による医療費削減効果の研究も進んでいます。75歳以上の高齢者では、ワクチン接種後1年間の肺炎医療費が減少したという報告があり、公衆衛生政策の観点からも重要な知見となっています。

日本における肺炎球菌の血清型分布や保菌状態を経年的に調査する研究は、今後の肺炎球菌感染症対策やワクチン開発に重要な意義を持つと考えられています。

国立感染症研究所の肺炎球菌感染症に関する最新情報

肺炎球菌ワクチンの重要性は、高齢化が進む日本社会においてますます高まっています。特に基礎疾患を持つ高齢者や免疫力の低下した方々にとって、このワクチン接種は重症肺炎や合併症のリスクを大幅に減らす有効な予防手段です。

ワクチン接種は個人の健康を守るだけでなく、社会全体の医療負担の軽減にも貢献します。定期接種の機会を逃した方や追加接種を検討している方は、かかりつけ医に相談することをお勧めします。

また、肺炎球菌ワクチンの効果を最大限に発揮するためには、バランスの良い食事、適度な運動、十分な睡眠など、日常的な健康管理も重要です。特に高齢者は、口腔ケアを丁寧に行うことで誤嚥性肺炎のリスクも減らすことができます。

肺炎球菌ワクチンは、インフルエンザワクチンとともに、高齢者の健康を守る重要な予防手段の一つです。ご自身やご家族の健康を守るために、ワクチン接種について医療機関に相談してみてはいかがでしょうか。

厚生労働省の高齢者の肺炎球菌ワクチンに関する公式情報