劇症肝炎とアルコール性肝疾患
劇症肝炎におけるアルコールの病因的役割
劇症肝炎は急性に発症した肝炎が短期間で重症化し、肝臓の機能が急速に失われる病態を指しますが、アルコール性肝炎も劇症肝不全を引き起こす重要な原因の一つです。アルコール性肝炎が劇症肝不全を引き起こす場合、大半の患者は長期にわたる大量飲酒歴を有しており、基礎に慢性肝疾患があると考えられています。
重症型アルコール性肝炎(Severe Alcoholic Hepatitis: SAH)は、慢性アルコール性肝障害を背景に、大量飲酒を契機に発症する急性肝障害として定義されます。この病態は禁酒しても肝腫大が持続し、肝性脳症、肺炎、急性腎不全、消化管出血、エンドトキシン血症などを合併し、多くの場合1ヶ月以内に死亡するとされています。重症化すると、吐血、意識障害、出血傾向、腹水の出現があり劇症肝炎のような経過をたどって1ヶ月以内に死亡することもあります。
参考)アルコール性肝障害
この病態の本体はエンドトキシン血症に基づいており、発症早期から血液灌流法による直接的なエンドトキシン吸着療法が試みられています。アルコール性肝疾患における急性増悪は、単なる脂肪肝とは異なり、炎症と肝細胞壊死を伴う深刻な病態として理解する必要があります。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/kanzo1960/43/7/43_7_305/_pdf
重症型アルコール性肝炎の診断基準と検査値の特徴
重症型アルコール性肝炎の診断には特徴的な臨床症状と検査所見が重要な手がかりとなります。症状として全身倦怠感、食欲不振、吐気嘔吐、黄疸、肝腫大や消化器症状を伴うことがあります。
血液検査では、AST/ALT比の上昇、AST・ALT・γ−GTPの著明な上昇、コリンエステラーゼ低下、線維化マーカーの上昇、高脂血症、白血球増加(多核好中球増加)などが特徴的な所見として認められます。特にアルコール性肝障害ではASTがALTより高くなりがちで、AST/ALT比が1.5を超えることが特徴的です。
参考)アルコール性肝障害
また、γ-GTPの上昇は過度の飲酒によるアルコール性肝障害で値が上昇し、肝障害を起こしていなくても、普段からよくお酒を飲む人では数値が上昇します。重症度評価にはMaddrey discriminant function(≥32)やJAS score(≥10)が用いられ、これらの指標により治療方針が決定されます。
参考)href=”https://www.dock-tokyo.jp/results/liver-function/gtp.html” target=”_blank” rel=”noopener”>https://www.dock-tokyo.jp/results/liver-function/gtp.htmlamp;gamma;-GT(href=”https://www.dock-tokyo.jp/results/liver-function/gtp.html” target=”_blank” rel=”noopener”>https://www.dock-tokyo.jp/results/liver-function/gtp.htmlamp;gamma;-GTP)(血液)の検査…
検査項目別の異常値の特徴として、γ-GTPは男性70IU/L超・女性40IU/L超で上昇し、肝臓がダメージを受けていることを示し、白血球数の増加は肝臓の炎症による免疫反応、ビリルビンの上昇により黄疸が出る可能性が高くなり、アルブミンの低下は肝臓の合成機能が低下していることを表します。
参考)アルコール性肝炎の初期症状|進行サインや放置するリスク【医師…
劇症肝炎様アルコール性肝疾患の治療戦略
重症型アルコール性肝炎の治療は集学的アプローチが必要で、まず(1)アルコールの中断に伴う離脱症候群と治療開始に伴うvitamin B1の欠乏の恐れがあり、至急の対応が必要です。全身状態を把握しながら(2)栄養の確保、感染症の対応、臓器サポートの必要性を検討し、同時に(3)アルコール以外の肝障害の原因精査も進める必要があります。
薬物療法においては、コルチコステロイド(例:プレドニゾロン40mg/日を4週間経口投与後、漸減する)が重症の急性アルコール性肝炎(Maddreyの判別関数の値が32以上)があって感染症などの禁忌がない場合に使用されます。プレドニゾロン40mg/日を開始し、7日間の治療効果を確認し、7日後のLille score< 0.45なら奏功の可能性があり、プレドニゾロンは28日間まで継続します。
参考)アルコール性肝疾患 – 02. 肝胆道疾患 – MSDマニュ…
治療非奏功患者においては、プレドニゾロンの中止が推奨され、新たな治療戦略として顆粒球吸着療法の特定臨床研究も行われています。重篤な劇症肝炎は、迅速に判断して集中治療室で全身管理をすることが必要で、多臓器不全合併例では特に緊密な監視が求められます。
参考)アルコール性肝疾患とは?元に戻らない?薬に頼れない?治療方法…
劇症肝炎とアルコール性肝疾患の予後と生存率
重症アルコール性肝炎の生存率は従来不良でしたが、近年改善傾向が認められています。1992年全国調査では23.8%、1998-2002年で33.6%でしたが、2003年で66.7%と改善傾向にあります。合併症の消化管出血と感染症が死亡率増加に関与しており、救命のためには早期発見と早期治療介入が重要です。
末期状態のアルコール性肝硬変になると、肝臓の機能が大幅に低下して全身に影響が出てきます。栄養が不足して痩せていく一方で、腹水が貯まりおなかが大きく苦しくなり、吐血や昏睡の危険も高まります。
多臓器不全(MOF)を呈した劇症型アルコール性肝炎の生存例は非常に稀であり、救命には迅速な診断と集学的治療が不可欠です。アルコール性肝硬変に対する肝移植の成績は、肝移植後のグラフトおよび患者生存率が良好とされていますが、重症型アルコール性肝炎の患者は入院直前まで飲酒しており、現時点の臨床の場では肝移植の適応外とされています。
劇症肝炎を予防するアルコール性肝疾患の早期診断法
劇症肝炎への進展を防ぐためには、アルコール性肝疾患の早期段階での診断と介入が極めて重要です。初期はアルコール性脂肪肝であることが多く、特別な症状はありませんが、節酒や減量で正常に戻ることが期待できます。ただし、脂肪肝でも重度だったり、長く放置したりすると、次の肝炎や肝硬変に進行することが分かっています。
飲酒習慣のスクリーニングには「AUDIT/AUDIT-C」テストが用いられ、現在の飲酒習慣が適切か、アルコール関連肝疾患や日常生活へ影響が出るような危険性を伴う飲酒習慣がないかをチェックできます。早期診断には定期的な血液検査による肝機能の監視が重要で、特にγ-GTPの上昇は過度の飲酒による肝障害の早期指標として有用です。
参考)アルコール関連肝疾患
健康な人は一時的にγ-GTPの数値が上昇しても、すぐにもとに戻るので、一定期間禁酒した後にγ-GTPの再検査をすれば、アルコールによる上昇か、肝臓や膵臓などの障害による上昇かの区別がつきます。アルコール性肝疾患の進行を防ぐためには、AST、ALTが100IU/L程度の上昇であれば通常全く症状はありませんが、長年この状態を放置すると肝臓の細胞が壊れ切ってしまい、肝硬変へと進行するため、早期の介入が重要です。
参考)アルコール性肝障害が疑われる肝機能障害の数値の見方を教えてく…
男性では日本酒5合を20~30年、女性ではより少量でも長期大量飲酒により線維化が進行し、肝硬変へ至ることが知られており、定期的な医療機関での検査と適切な飲酒量の管理が劇症肝炎の予防において最も重要な対策となります。